クルマを買った

金太郎を買おうと思ったわけ

今までグレメタのカローラに10年乗っていた。その前は真っ赤なKP61スターレットSで、この年代ならアコガレだったシャァのザク、「赤い彗星」とマルタの騎士団のラ・ルリジオンのガレー旗艦にちなんで「流星号」と名付けて金曜の箱根の国道一号線をブイブイ言ってイスラム教徒の軽トラにぶち抜かれた。何しろ小さな後輪駆動車、モビルスーツみたいに言うこと聞いてこいつで夜明けの国道246でクルセダーズのカセット聞きながら、スカGと勝ち目のないバトルをしたもんだ。KPがバイクに突っ込まれて、悪運と手を切るように、KPを手放し、100万円払ってグレメタのカローラを中古車センターのストックから引っ張り出して、自宅近くの駐車場にたどり着くまでの30分間で同じ色と同じ形のカローラ3台とすれ違った。それから10年。どこにでもある当たり前の人生、当たり前のカローラである。

スターレット、カローラときたら、その次は白いマークIIレースのシートカバー付きだとか、グリーンの中古のウィンダムの何でもありのオヤジ仕様なんて選択肢もあるんだけどどうも気に入らない。一人で6人乗りのミニバン乗ってコンビニで買い物するようなそんな人生どう考えたって間違っているし、国産のスポーツカーに乗ってまた箱根を攻めるにはちょっと歳を取りすぎた。ごめんな、東京カローラの中古車販売のトップセールスレディの藤田さん、貴女とこの20年の付き合いもこれまでだ。

考えてみればこれまで、カローラに乗っていた10年は、どうみても平凡なサラリーマン「主任・島謙作」らしい人生で、ここから「課長」もしくは「部長」と呼ばれるには確かにそのテの上級車に乗り換えるのは正しい人生の選択なのであるが、どうせ中小企業のサラリーマン、ネクタイだってロクに締められず、ヒザの抜けたよれよれのズボンを履き、馬鹿でかいカバンにコンピュータ突っ込んで東京の地下鉄に埋もれ、出世街道からも、世間の注目からも最も遠く離れた人生ならば、思い切ってアウトローに道を踏み外すのも人生なのだ。

所詮ウチの社長は国産のグロリアだ。前の社長はやっぱり国産のシーマに乗っていた。前の社長に「なぜあんたはカイシャを興して中小企業の成金社長になったのに外車だのベンツに乗らずにシーマなんだ、社長がベンツに乗らなきゃ、ワシラ従業員は一生BMWにも乗れんぞ、ワシは未だに中古のスターレットだ」と酒のイキオイで諌めたことがあるのだが、どうもこの会社にはそういう趣味の人間はいないらしい。

ということで「買うなら新車」ついでにエラソーな革のシートがついているのが良い。それからオプションでサンルーフね。タバコ吸うときやっぱり気持ちいい。天気のいい秋の日も気持ちいい。できればオーディオはいいのをくっ付けてだね。スピーカはJBLがいい。ウィルトンフェルダーのサックスがかっこよく響き、スティーブガットのドラムとマーカスミラーのベースがバシバシ響くのがいいい。だからクルマはどっしりして重くって静かなヤツ。外車もいいかも知れない。どうせ一生「外車に乗れない」人生送るくらいなら、今から外車にのってしまうのもいい。

うん、なに、外車?

まぁだけど、クルマ買っても近所に買い物行くくらいしか乗らんけどね。だから、間違ってもベンツだとかキャディなんかみたいにでっかくなくてもいい。ちっちゃいので充分だ。人生とマンションの頭金の諦めついでにポルシェのロードスターでも中古なら、がんばりゃ買えるけど、小さくってちゃんと走って革のシートが付いていて、結構安くて、正しく走れて、サンルーフ。でもルノーやフィアットみたいに貧乏くさい白人が乗るのもいやだ。

ということでこいつが出たのは2000年の夏。

あの笑っちゃうほど奇妙なカタチのベース車両は200万円ちょっと、安い。これにホンガワのシートとサンルーフと2リッターエンジンにクルーズコンピュータがついたツーリングモデルがプラス50万。

金太郎購入の経緯

ということで最初からこいつは買うつもりでいた。ただ、前車のカローラの車検切れが近づいた2000年の秋に、多摩クラ行ったら、何しろタマも少なく、人気もあって納車は半年先と言われたのでガマンしていただけなのである。

ちゅうことでカローラの11年目の車検を取って、車検から引き取るときにドアをへこませて1年半、へこんだドアのカローラを見つめながら、「こんどは買うぞ買うぞ」と達磨のように唱えて一年半、いよいよ多摩クラへ行った。納車2、3ヶ月は全然ガマンできる。狙い目はリミテッドの赤である。

クルマは目立つことが”命”と信じていた以上、白やシルバーなんかのどこにでも転がっている明色系はハナっからメじゃない。かといって黒だのグレーだのグリーン系の暗い色ももともと好きじゃない。KPの前に乗っていた最初のマイカー、53年排ガス規制のシールが張られた5年落ちの20万円のスプリンターのHBもやっぱりサンセットがかったソリッドの赤だった。はじめてそのクルマでオンナのコとドライブしたとき「やっぱクルマは赤よね」と言われた事がトラウマとしてある以上、クルマは「赤」に限るという奇妙な思い込みもある。だからグレメタのカローラに乗っているワタクシのこの10年間は真冬の津軽海峡みたいに暗かったのだ。

できればビビッドな暖色系のクルマ(下取り辛そうだけどなぁ)がもいいよなぁ。そうクルマは最初から手放すことを考えて乗ってはイケナイのである。10年乗る気で買え。できれば綺麗で鮮やかなダンデライオンだとか、メチャ明るいグリーン、カリフォルニアの夕陽のようなドロリとしたオレンジなんかがあったらこいつに似合うし、欲しかったんだけど、カタログにはそんな色はない。そんな色ならワーゲンのNewビーにすればよいのだ。

ということで、選択肢は赤しかないぞ。ということで多摩クラに乗り込んだのだ。

ところが、そこに特別色の限定車があったのだ。2ヶ月前に雑誌で発表された希少色、限定品、しかしあの下品な色じゃつらいよなぁ。ワシの手には入るまいと雑誌を見ながらタカをくくっていたんだけど、どうもあの下品でド派手な中央高速名古屋城方面好みのピカピカが敬遠されたらしい。しっかり在庫が残っていたのである。

多摩クラにクラシックの赤なら、店頭展示車があるんだけど、リミテッドの赤はないらしいし、次の赤リミの入荷予定がないということであれば、またカローラと2年間の暗いグレーの冬の日本海な人生を送るしかない。仕方あんめい。赤がいいというのは思い込みというヤツで潜在的に黄色かオレンジがあればなぁと思っていたわけだし、思い切ってこの色に乗るしかないのかな。ということで金太郎を購入することにしたのだ。しっかり値引きなし。何しろこのディーラはワンプライス販売で有名だ。だが今なら、在庫セールですごい値引きが期待できるらしい、多摩クラのハシモト、このヤロー :-) だが、契約から納車まで僅か5日、ハシモトクン、良くやった。そこだけはエライ。

金太郎のヒミツ

金太郎の納車当日、身を清め、ついでに近所の美容院にカットに行った。この美容院とは20年来の付き合いなのだが、何しろ若いおねぇさんがいっぱいいるので、夜の新宿ABC会館裏の飲み屋のような不健康な話題に付き合うこともなく、面白い話を色々できるので、実は大好きだったりするんだな。

そこの見習いのねぇさんにシャンプーしてもらいながら

「ひゃぁ、今日クルマ買うのね、色は金色だから、もう名前決めてあるんだ、”金ちゃん!”ちょうどあんたの髪の毛の色みたいなの」

彼女は、目がパッチリして小柄で色白の美容師なんだが、ここ2年目くらいの若い娘で、掃除とシャンプーが専門でまだハサミは持たされていない。どうもここの美容師というのはみんなイナカから出てきてその出世階段を上がり、だんだん垢抜けてきて、最後に店長になってしばらくたったらぱったり辞めるというパターンが多い。彼女も最初は初々しかったんだけど、だんだん性根が出てきて、しっかり髪の毛をヤンキー色に染めて結構アケスケな話しもできるようになってきたところだ。

彼女はこう言ったのだ。

「えぇ、島さん、どうして”金太郎”にしないんですかぁ」

ということで、彼女の命名により名前は”金太郎”にしてしまった。

頼むから、今度ハサミもつようになっても、オレのアタマを「金太郎カット」にしないでくれ。

ということで金太郎との正しい付き合い方

金太郎に乗り始めて3ヶ月、後悔したのは、小回りが利かないこと。何しろ戦車なみの回転半径だ。おまけに車体はそこそこあるのに、カローラに比べりゃフロントグラスは遠くて小さく視界が狭い。戦車のペリスコープ覗いているみたいだ。でも戦車は専地旋回(だっけ)でその場でクルリができるのだが前輪駆動のファミリーカーベースの金太郎にはそんな器用なことできるわけもなく、でっかくて屋根が小さいベルエアクーペかフェアレーン(乗ったことないけど)にでも乗ったような気分でスーパーの駐車場に入らなければならない。

しかも燃費が悪い、重いからなぁ。まぁ、アメ車だからと言って笑って過ごせばそれまでだが、今時の2Lのクルマにしちゃぁ軽く7Kは走って欲しい。50Lしかタンクは入らないから300Kmも走ればスタンド探しは必死だ。だが、未だに近所のENEOSの兄ちゃんは金太郎がレギュラーガソリンで走ることが信じられないらしい。いちいち「レギュラーですか?」とがっかりしながらクエスチョンマーク付きで聞いてくる。

アメ車のクセしてイッチョマエに上軸二頭弁式エンジンだ。間違ってアメリカ人が間違って作ってしまった間違った小手先エンジンだし、大体あのスタイルにダブルカムの繊細なのは間違っても似合わんぞ。ドロドロ廻って一発死んでも気が付かないくらいちゃんと動くOHVのV型乗せろ。だからいったん高速道路でアクセル踏んづけてガクンとひどいショックでキックダウンしてギュイーンと6000回転まで加速をつけたら最後、ブレーキ踏むのがもったいない。おかげで外環で変なGTRにアオラレタなぁ、と思ったら、覆面だったりする。ずるいぞ埼玉県警。珍しいクルマだからってパトカーの中で調書取りながらクルマの名前聞くな!どうせ金太郎だ。

その代わりといっちゃなんだが、ゆっくり走っているときは非常に静かでよろしい。何しろアメ車のトラックだ。ドアはびしりとしまり、ちょっとロードノイズはうるさいがジープみたいにしっかりしている。さすがに箱根は遠くなったけど、もうこいつで箱根で駅伝やるわけにはいかん。そういうもんだ。

オマケに背が高いのでアップライトに座れる。おまけにあの顔つきだ。「オラオラどけどけ」のキブンで威張れる。ホントはアメ車の中では一番ちっちゃいクルマなのにだ。

非常に下品な顔つきで、背が高くてド派手な色なので、たとえ東京ディズニーランドの駐車場でもすぐに見つかる。

表参道や、銀座の中央通りでも場違いな恥ずかしい想いをしなくても済む。

盗まれてもすぐわかる。

親戚の葬式ではちょっと気恥ずかしい。

タマに休日仕事で訪れる客先の守衛さんは喜んでくれた。

いつも行く近所のラーメン屋のオヤジは「いい色だねぇ」といってくれた。

その代わりといっちゃなんだが、その辺に”ぽっ”と駐車することができなくなった。10分も止めているとじろじろとヒトが見ていくし、見ていくヒトの中にはチョーク持ってウロウロする制服姿のおねぇさんもいる。チョークでわざわざシルシつけなくてもそこに止めているのは二度見りゃわかるのだ。

ところが、すぐご近所で同じ色の同じのが路上駐車されているのを見てしまったのだ。ひどくショックだったりする。今度路上駐車しているのを見かけたら「オレの金太郎じゃない!」ってマジックで大書きしようかと本気で思っている(笑)

多摩クラのハシモトぉ。オレの近所で同じの売るなよなぁ。

※ あまりにも変なクルマなんで、詳しい車名は恥ずかしくって明かせません。わかるヒトと身内で読んでもらえらば結構です。

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