ちょっと地方に行っている間、散々うまい空気を吸って、夜の羽田空港に降り立った主任・島謙作。羽田から新宿行きのバスに乗り込んだ。非常に疲れていたし、それほど給料が高かったら、羽田からそのままタクシーにでも乗って家に帰りたい気分だったが、そうはサイフが許さない。さて、新宿西口に到着し、バスのドアが開き、ドアステップに降り立ったとたんにクシャミ三発だ。
なんだぁ、これは。どうもホコリだらけのどんよりしたスープの中を泳いでいるような変な気分である。妙に涙が出てくるし、どうも先ほどのクシャミ三発が怪しい。
あ、そうか、これが花粉症なのだ。
花粉症になれば一人前
そう、花粉症になればいっちょまえの都会人である。田舎モノが花粉症になるわけない。田舎で鼻水垂らしているガキはただのハナタレ小僧なのである。春先になれば、周囲に散見するズビズビな人々。うらやましいわけではない。ただ、気の毒なのか、自分ひとりだけ元気なのが申し訳ないというのか、まぁそんなことはどうでもいいけど、自分には当面縁のない話であろうかなぁと長年思っていた。
「俺さぁ、東京行ったらさぁ、花粉症になってさぁ」なんて、かつてのハナタレ小僧が帰省した際にでも友達に自慢すれば良いのだ。さぁ、あなただってとりあえず都会人の仲間なのだぞ。
そうはいってもここ数年前から自覚症状はあることはあった。毎朝不機嫌な顔をして家を出るとき、よくクシャミ三発に襲われたものなのだ。これが実は花粉症の前兆だったのかもしれない。だが自覚症状はその程度で、いかにも「カフンが飛んでます」的なフィーリングというものはついぞ感じたことがなかったのである。
それが、今朝はそうなのだ。朝からカフンが頭の回りを働きバチのようにぶんぶんうなりながら飛んでいるのである。音も姿もなくそれでもヒタヒタというかジリジリというか、あ、やっぱり汚いスープの中を泳いでいるキンギョの気分といったら、正確か(ぜんぜん正確じゃないなぁ)まぁとにかくそんな感じなのだ。
凶器の中を歩いている。こんなに空気が汚れているというのが、目やのどや鼻の穴の中で感じるのである。まぁちょうどカルキだらけのカナ盥の中に泳がされたキンギョ(やっぱりキンギョだろうな)のような気分で、周りの空気が妙な刺激となって、眼のあたりやハナの奥を刺激するのである。
田舎から出てきた諸君、さっさと江戸っ子言葉を身につけ、花粉症になるがいい。だぁれだって立派なトーキョーの人間に見えてくるぞ。
てやんでぃ、ヤクルトファンとFC東京のファンになれば完璧だ。間違っても浦和レッズだとかマリノスだとかマリーンズのファンですなんて言わないことだ。彼らは首都圏ローカルであって都民じゃねぇぞ。ベルディとジャイアンツ?ぁんなの参議院選挙の全国区みてぇなもんだ。
都知事選挙の選挙権持ってぇることが東京人のシンボルなんでぇ。青島幸男と石原慎太郎が東京人の恥でありホコリなんだぞ。内田裕也に投票できる権利なんでぇい。
緑のカサ振り回して東京音頭踊って、花粉症やりゃぁ誰だってどこの田舎にもいたハナタレ小僧だったとは思われねぇぞお。
ということで東京ローカルな都会人の仲間入りした主任・島謙作、やっぱり外へ出るのが怖いのである。
まぁ、いいや、これでカイシャへ行きたくなくなる事情がまたひとつ増えたのだ。[ 戻る ]