昨日のメシ
朝、起きますよね。真っ先になにから始めますか。まぁそりゃタバコ吸ったり、ラジオの「本日の占い」なんか床の中でぼんやり聞いていたり、冷たい水を飲んだり、インターネットで「本日の天気」と昨日書き込んだ掲示板などをチェックして、お茶飲んだり顔を洗ったりすると、下腹あたりに感じるわけですよ。
「オ、おお、個室がオレを呼んでるゼ」
こうして、「今日も元気だたいへんよくできました」という花マルみっつのひどく下世話な話になるわけです。
ところでそうやって個室で力んでいると必ず考えませんかね?
「オレ、昨日何食ったっけかなぁ」
いや全く考えない人もいるのかもしれませんが、10人中8人くらいは必ず考えるんではないかな、とそう疑うのですけどね。いかがなものなんでしょうか。本日はそのへんのあたりをはっきりさせておきたいなと、まぁ思っているわけです。
いや、オレはそんなこと考えない、というヒトがいらっしゃるのなら、以下は読まなくても結構です。いずれにしろ、このヒトの勝手な思い込みと決め付けてくださって結構ですから。
なにしろ、これから書こうとしているのはそう言った下世話な話なんです。
たとえば、すっかりキブンは「考えるヒト」のポーズを取りながら
「今日はまとまっているな」
と思うときは比較的体調が良いと思い込んでしまったりするんですね。
昨日は朝から客先直行9:30分の楽勝ペースでゆっくり起きて、朝はマックで朝マック、昼は遅めでそのまま客先から途中のトンカツ屋で昼のサービスフライ850円、ライス、キャベツ、味噌汁お代わりは「お気軽にお申し付けください」の中の一番貧乏人向けのサービスメニュー、さすがにこのトシだから、海老フライ一個でご飯一杯、メンチで二杯目、キャベツで三杯目なんてタフな食事はしなくなったけど、しっかり定食にキャベツをお代わりなんかしたよな。
んでもって夕方カイシャの近所のラーメン屋でタンメン食って、忙しかったしな。ウチ帰ってから、近所の酒屋で「缶ビール!」と行きたいとこなんだけど、最近缶ビール飲んでねぇよなと思いつつ、発泡酒の棚を通り越してバラ売りの缶チュウハイ4本買ってから....
あれ、オレなんか食いながら缶チュウハイ飲んだんだよな、最近すっかり酒も弱くなったな。すっかり前の日に何食ったんだかさえも忘れてんだよな。でも昨日は野菜も米もごっそり食ったしなぁ。食っただけちゃんと出るものは出るんだよな。
と安心しきったあげく「本日の占い」の「胃腸の健康に要注意」といった警告なんかすっかり忘れてそのまんま出勤してしまうんですね。そうすると、各駅停車から痛勤快速に乗り換えるあたりで
「途中下車したい」なんてことになる場合があるのです。
いったい何が悪かったんだ。そうだ、ウチ帰ってから、夜中に突然ハラへったもんだから、インスタントラーメンに三日前のタマゴぶち込んだんだ。そうだった。あれが悪かった。という「昨日のヤクルト巨人戦、9回裏の諸悪の根源」を突然思い出してしまうんですね。
これが昨夜は職場の歓送迎会があって一次会はいつもの副部長のナァナァのカンパイの音頭から始まり、聞きたくもない課長の「呪いのオコトバ」、トドメの部長のバンザイ三唱でしめて、四谷の二次会で女の子も交えてカラオケ、新宿の三次会で痔患いのボスの悪口をサカナに、終電間際の三番線ホーム、階段下りてすぐの後ろから二両目、女性専用車の一両前で「ご帰還」した翌日なんかは、昨日の夜はどんなものを口から摂取して、どんな悪口を聞いたのか、いや、そもそもジブンが言ったのか聞いたのか、結局、帰巣本能にまかせてどうやってこの床に入ったのかさえ思い出せずに、個室でシンギンする元ヨッパライ約一名、一夜明けて二日酔いオトコひとり、既にアルコール中毒転落寸前の中年オトコが、いつまでもはっきりしないアタマで昨日の夜の反省と、昨日のひるめしの内容とを必死になって、堅くなり始めたアタマとユルくなりはじめたオシリで思い出そうとするんですね。
そうか、昨日はもうどうやって帰ったのか覚えてないんだよな。確かに居酒屋タコのチーズ巻きロールは美味かったんだけど、あれ、昼は何食ったっけ、あ、そうかサバ焼き定食だ。朝はなぁ、確かコンビニのタマゴサンドイッチだったんだよなぁ。野菜度ゼロ。
おお、それにしちゃぁ随分「ユルイ」ぜ。ブルブル、早くしないとまたボスのうるさい小言を聞かにゃぁならんし、おお、それにしても調子悪い、正露丸あったっけなぁ。胃薬もほしいよなぁ。おお、それにしても内臓も全部出て行ってしまいそうなこの苦痛よ。
なんて時は不思議なもんで、電車の中で充分酒臭い息を吐くにもかかわらず、途中下車もせずに無事にカイシャに到着できたりなんかするもんです。まぁ、内臓までとは言わなくても、臓器に蓄えられたありとあらゆるものと、記憶に残るいやな思い出も宿便のように水にすっかり流してしまったんですね
昨日のひるめしも、先週の仕事のミスも、2年前に別れた女のコの想いでも、子供の頃に母親についたウソも全部紙にくるんでコックをヒネれば全部水に流れる。
ところが、週に一度はあるんです、朝から
「全然その気配がない」なんて時は結構大変だったりします。何しろ朝に行う全ての儀式を挙行しても、「どうしてそこにドアがあるんだ」というくらい、カラダの調子がソッチに向かわずそっけない。やむを得ず、中に入って「考えるヒト」となるのですけど、先週、無防備でやっちゃったティーンの女の子みたいな不安な気持ちになって考え込んでしまいます。まぁ、それは経験がないからわかんないけど。
あれ、昨日は朝はまっすぐ川崎の客ンとこ行かなきゃならなかったから、分倍河原で天ぷらソバ食ったしなぁ、チョロっと仕事してから、そのまんまカイシャに戻ろうと言うところで、ちょっと早いけどひるめしだな。駅前の中華定食屋で牛肉の煮込み定食、まぁ、午後は何にも予定がないから、中華屋の向かいのシャノアールに入ってケータイのスイッチ切って30分イネムリ、んでもって3時にカイシャにもどって、読む価値も返事もする値もないメール読んだら既に5時、ちょろちょろ報告書の二、三通も書きゃぁもう退社時間。でも定時退社するのはあんまり暇そうに見えるからなぁ、なんて思いつつ、そうだ、前からいじくりたかったあれやっとかなきゃ、あれ、ハラへって来たぞ、おい、誰かサブウェイのターキーサンド買ってこいよ、あとワシはコークのMサイズね。なんていつもの定時の午後9時退社の途中で、新宿西口あたりの焼き鳥屋、ビールの銘柄がサッポロなのが許せないが、結局帰ったのは午後11時、仕上げはいつものニッカの水割り。そうだったのか結局昨日も野菜度ゼロ。やっぱりちゃんと毎朝ヨーグルト飲まなきゃだめなのかなぁ。今日の仕事はどうだったかなぁ。もし出先で「途中下車」じゃ、きついな。すんげー「行きたくなった」ら困るよなぁ。
なんてとにかく「困った困った」を連発し首筋をコキザミに3度ほどフって、本日の予定をもう一度検討し、これから迎える地獄の1時間半の通勤時間に不安を感じつつ個室を後にして、急いで上着を着て、ポケットにタクシー会社のティシュを放り込み、クツを履き、ドアにかぎを掛け、隣のネコといつものように挨拶代わりの猫パンチで30秒間遊び、シャノアールの紙マッチでタバコに火をつけ、今日も主任・島謙作は出勤するのですね。