こんなになってしまいました。
その駅の名は「飛田給」という。駅便ワンダーランド、飛田給「トンデタマウ」じゃない「トビタキュウ」と読む。それこそ、野口五郎でさえバカにしそうな、シケた私鉄沿線の、しかも、都心のターミナル駅からたっぷり各駅停車で40分もかかるマイナーな駅のひとつである。そのマイナーさは京王沿線随一で、乗降客数、駅前の商店の数、トイレの個室の数、近隣の住民の数、どれをとっても沿線の中では一番マイナーなことは間違えない。
隣の西調布(これまたなんの特徴もない冴えない駅名だろ。だいたい駅名に”西”と付くところは”西荻窪”にしろ”西八王子”にしろとって付けたような地名を使った駅名で特徴のないロクな駅ではない)とはわずか500メートルしか離れていない。隣の西調布にあって、この「トンデタマウ」じゃない、トビタキュウだ、にないのは、非常に数多くある。西調布にはわずか30mとは言え「歓楽街」がある。交番だってある。スーパーだって「シミズヤ」と「東京都民生協」があるというのに、かつてここの駅前には肉屋が二軒と八百屋が1軒、魚屋が一軒、酒屋が二軒に中華料理屋が一軒、コンビニ2件、あと万物がそろうとしたら、南口の「ミナト屋酒店」、まぁそんな位しかなかったのである。北口の「養老の滝」は毎日盛況だった。飲み屋はそこしかなかったのだ。そのクセにここの商店街のキーワードは「なんでもそろう飛田給」ときたもんだ。そりゃそうだろう、自営業者がこの程度しかなければ団結しなければやっていけないのである。昔、西調布を利用していた頃は「西調布、飛田給を笑う」というくらいマイナーさを競ったものだ。
そして一番困るのが駅のキオスクがないことだった。何しろ今まで駅のホームに新聞の自動販売機があるきりで、朝の7時にはとっくに日経が売り切れていた。仕方がないので、いつも調布の駅で乗り換えるときにキオスクで日経を買っていたものだ。
そしてこの駅からわずか数百メートル歩くと、もうそこは府中の町だ。道を歩いているとすぐわかる。穴ぼこだらけの調布市内の車道が、いきなりあか抜けたカラー舗装になり、雑草が生えていた歩道にタイルが張り巡らされる。そう、飛田給は調布の街の一番外れにあるのだ。街のはずれまで行き届いている隣の府中に比べ、調布は何しろ貧乏な街である。街の隅々まで血液が行き届かない。その末端神経のように忘れ去られたのがこのトンデタマウ、じゃない飛田給なのだ。
その「なぁーんにも」ないトコロが災い、じゃなかった、幸いにして、いきなりこんなものをつくってしまったのだ。なにしろ「飛田給名物」とくれば、甲州街道を車で走っているとユーミンも詠い出せば「ゲヘヘガハハ」と下品に笑い出しそうな突然広がるあのバカにだだっ広い旧帝国陸軍の練習場跡のノッパラと調布の飛行場、そして「東京オリンピックマラソン折り返し地点」の看板だけである。あのアベベがわざわざ代々木から、ここまで走ってきた、というだけの40年前の記憶が年寄りの心に残っている、そんなチンケな駅前なのだ。
そんなマイナーな駅がいきなり「特急停車駅」だぜ。「新宿から17分」の未だにバブルを夢見ている不動産広告みたいなこの地の利。[主任・島謙作] -> [京王沿線駅便マップ] -> [よもやま話]全て「東京スタジアム」のおかげである。あたりまえといえばあたりまえなのだが、スタジアムで何にもない日は特急は止まらない。当然だけれども、朝は通勤快速すらカスリもせずに、ノロノロと通過してくれるのだが、水曜と土曜はFC東京さまさまだ。ベルディなんか多摩川のあっち側に蹴飛ばしてしまえだ。
なんて話はおいといて、今までこの駅には下りホームの裏側にシケタ男女兼用の個室がひとつあっただけだったとのことだ。あっただけだったらしいという言い方は微妙であるのだが、たいてい、用事がある場合は自宅の個室を使うのが普通の感覚である。
そんなシケタ駅の駅便もこのように立派になってしまった。個室は二つ、うち一つはしっかり「洋間」である。
駅がオープンする日まで気が付かなかったのだが駅の外にもそのテの施設ができた。周囲3km以内には公共の場所なんてものはなかったこのトンデタマウ、じゃない飛田給にもできてしまったのだ。公共施設ということで、はたしてこれは「駅便」と呼べるのだろうか?
個室はやはり二つ、両方「和室」であった。ついでに畳も敷いて欲しいというのはちょっと贅沢か?(ちょっと違うな)さすが、私鉄のショボイ各駅停車駅がいきなり「特急停車駅」に三階級特進しただけのことはあるのだ。
ついでに言うと、「収容人数5万人の施設」にもあるものはある。ちなみに、この「収容人数5万人」の、その目的の施設のうち45%は女性用だそうだ。ちらりと、のぞいてみたところ、和洋混在である。いかにも多摩地区のどうでもいいようなところの建てた安風情のマンションのように和室と洋間が混在しているのだが、ここでは和室が多いようだ。つまりは飛田給は普段は恐ろしいほどの駅便ワンダーランドなのである。
ちなみに、この駅にはなんと恐ろしいことに、エスカレータ4基、エレベータ4基が備えられている。毎朝毎晩、この駅を使うときは意味もなくしっかり利用させてもらっている。ついに期待のキオスクもできてしまった。さすがに利用者が少ないせいか、毎朝、満員電車で読めもしない朝刊を購入してきたせいか、ついにキオスクのオバチャンも顔を覚えてくれたらしい。今朝なんか「あ、おはようございます」ときたもんだ。
まぁ、仕方がない、ノッパラの向こう側にはいきなり「東京外語大学」だとか警察学校なんかがやってくるのである。そりゃ、アメリカンスクールが近いだとか、キリスト教大学なんかが近くにあるとは言え、こんな田舎の駅がいきなり国際化してどーなるんだ?こんなに豪奢な駅は近くにはせいぜい府中の駅くらいしかなく、おそらく、京王新宿駅だって、エレベータの数では飛田給には負けている。ついでに本社もここに移してきたらどうなんだ、京王電鉄も.....何しろまだ野原は余っているのだよ。
ま、それもアイディアだけど地元のFC東京に対する期待、じゃなかった東京スタジアムに対する並々ならぬ期待というか「リキミ方」というものにタダナラヌものを感じさせてくれるのだ。